
骨粗鬆症
骨粗鬆症
骨粗鬆症は、骨の量と質の低下により骨折しやすくなる病気です。転倒などちょっとしたはずみで、背骨(脊椎の圧迫骨折)、手首の骨(橈骨遠位端骨折)、太ももの付け根の骨(大腿骨頚部骨折)などが骨折しやすくなり、骨折するとその痛みで動けなくなります。また、背中や腰が痛くなった後に、丸くなったり身長が縮んだりといった症状が現れることもあります。
高齢化の進展に伴って増加する骨粗鬆症は、近年、生活習慣病のひとつと考えられ、予防や早期診断が注目されています。
女性ホルモンは骨の代謝を調節していますが、女性の場合、閉経によって減少すると骨粗鬆症を発症しやすくなります。これを閉経後骨粗鬆症といい、女性に最も多くみられる病態です。このほか、副甲状腺や甲状腺などの内分泌疾患と関係して起こるものもあります。副甲状腺は、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌し、カルシウム濃度と骨代謝を調節しています。PTHは骨を破壊してカルシウム濃度を高めますが、過剰であると骨を破壊し過ぎてしまいます。このPTHが過剰になる副甲状腺機能亢進症は、骨粗鬆症の原因の一つとして知られています。また、過剰な甲状腺ホルモンの作用も、骨密度の低下をもたらすといわれています。
骨粗鬆症は骨強度(骨の強さ)が低下して骨折しやすい状態になりますが、この骨強度は、骨量の指標となる「骨密度」と、骨構造などの「骨質」の要因によって決まります。女性の骨量は、成長期に増加し20歳頃に最大骨量に達します。40歳代に入ると卵巣機能が衰え始め骨量が減少し始めます。閉経前後の50歳頃からは女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に低下し、さらに骨量の減少をきたします。エストロゲンは、破骨細胞(古い骨を吸収する細胞)と、骨芽細胞(新しい骨を作る細胞)の両方に作用します。閉経に伴いエストロゲンが欠乏することで、破骨細胞による骨吸収が亢進して、骨量が減少すると考えられています。
また、ダイエットや偏食(カルシウム摂取不足)、運動不足、日光照射不足、喫煙、過度のアルコール摂取などの生活習慣も骨粗鬆症の原因となります。
女性と比較して男性は骨粗鬆症の頻度は少ないですが、前立腺癌などでホルモン治療を受けられた方や長期に渡ってステロイドの使用歴も有る方は骨粗鬆症が起こっている可能性が高いです。
骨粗鬆症の診断は、骨粗鬆症に骨折の既往の有無、および骨密度の数値などを参考にして行います。診断がつけば、他の疾患が原因となっていない原発性骨粗鬆症なのか、あるいは疾患が原因となっている続発性骨粗鬆症なのかを鑑別し、その結果をもとに治療方針を検討します。
問診
問診では骨粗鬆症に関して質問します。食事や運動、飲酒・喫煙などの生活習慣や、これまでの骨折および病気の既往、骨粗鬆症の原因になりうる薬剤の使用歴、年齢や閉経の時期などをうかがいます。これらは診断するうえで大切な手がかりとなります。
身体診察
身長と体重、背骨の変形、背部痛の有無などについて確認します。25歳頃の身長と比べてどの程度縮んでいるかということも、診断するうえでの指標になります。
レントゲン検査
背骨(胸椎や腰椎)などのX線写真を撮り、骨折や変形の有無、骨粗鬆化(骨がスカスカな状態になること)の有無を確認します。他の病気と区別するためにも必要な検査です。
骨密度検査
骨密度は骨の強さを判定するための代表的な指標です。若い人の骨密度の平均値(young adult mean:YAM)と比較し、自分の骨密度が何%であるかが示されます。YAMが70%未満で骨粗鬆症と診断されます。ただし椎体骨折(背骨の骨折)や大腿骨近位部骨折(股関節付け根の骨折)の骨折の既往がある場合はYAMの数値が関係なく骨粗鬆症と診断されます。その他の脆弱性骨折(軽微な外力で発生した骨折)の既往がある場合はYAMが80%未満で骨粗鬆症と診断されます。
血液検査
骨代謝マーカー(骨の新陳代謝を評価)やビタミンDなどを測定することで、骨密度が今後どのように変化していくかを予想することができ、治療の必要性や治療方針(治療薬の選択)を決めるのに役立ちます。また、骨粗鬆症治療開始後の効果判定にも有用です。
骨粗鬆症は痛みなどの自覚症状がなく、発症し進行するケースがほとんどです。背中や腰に痛みを感じたり、身長が縮んだりといった自覚症状が出た時には、かなり症状が悪化していることがあります。早期の診断と治療がとても重要です。骨密度検査は、骨の健康を知るうえで重要な手がかりとなります。とくに女性は症状が無くても、40歳を過ぎたら定期的な骨密度検査をお勧めします。
骨粗鬆症はタイプによって治療に用いる薬剤が異なります。閉経後で骨折リスクが高い(骨密度が低い)方は、ビスホスホネート製剤(骨の吸収を抑える薬剤、経口薬と注射があります)などが用いられます。骨折リスクの低い方には、活性型ビタミンD3製剤や選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM:selective estrogen receptor modulator:エストロゲンを補う薬剤)を用いるケースが多いです。また、治療にも関わらず、骨折リスクが高い方は、PTH製剤やヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体など骨形成を促進させる注射製剤が用いられることがあります。最近では、作用機序の違う薬剤の併用療法も骨折リスクを減らすことが分かってきました。患者様の年齢や病態に応じて治療薬を選択します。
骨密度を増加させるためにはカルシウムの摂取とともに、カルシウムの吸収を促進するビタミンDや、骨へのカルシウムの取り込みを助けるビタミンKなどの栄養素も必要です。エネルギーと栄養素を過不足なく摂取することがポイントになります。
運動不足は骨密度を低下させる要因の一つです。適度な運動は骨に圧力がかかり、その刺激が骨の形成を促進します。日常のなかに散歩や階段昇降などの運動を習慣として取り入れましょう。ウォーキングの目安としては、1日8000歩、週3日以上で骨密度が上昇するという報告があります。また、運動は転倒予防にも重要な役割を担っています。運動不足は筋肉量の低下を起こし、転倒リスクが高まります。転倒は高齢になるにつれて発生頻度が増加しますが、転倒により、大腿骨頚部を骨折してしまうと寝たきりの生活を余儀なくされます。無理のない運動を継続して行い、骨と筋肉の健康を維持していきましょう。
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